当院の特徴

すべての病人に対応可能

 古医書に記載された鍼灸の適応症は多彩であり、伝統医学に基づく鍼灸施術が全科にわたって有効であることが見てとれます。

 また、伝統医学の特質である“心身全体を診る治療体系”を戦前から戦後にかけて再興させてきた日本の鍼灸師たち(当院はこの系譜に属しています)の症例報告には、痛みの治療にとどまらず、風邪をひきやすい(虚弱)、便秘がち、冷え性などのいわゆる体質的な問題から各種内臓、目・耳・鼻・舌・皮膚の感覚器、脳・神経系、精神科や心療内科などの本格的な病気にまで効果をあげていたことが記されており、鍼灸治療の広範な可能性の証左と言えます。 

 人間は心と体を消耗させながら生きざるを得ない存在ですが、一方でその消耗を年齢相応にまで回復させるための仕組みが備わっています。この仕組みのおかげで、疲労と回復を繰り返しながらも人生を生き生きと送ることができるのです。

 しかし、心身が日々受けるダメージと回復力の均衡が崩れると疲労が蓄積していき、不調が自覚されはじめます。そしてその不均衡が解消されないまま長く経過すれば病状が固定してしまいます。「病気の慢性化」です

 病の成り立ちをこのように考える当院では、心身へのダメージつまり精神的ストレス、過剰労働、睡眠不足、暴飲暴食や偏食、気候(および冷暖房環境)による影響などを極力避けて〈自分をいたわる生活〉を意識付けるとともに、充分な回復力の発動を妨げている〈心身内部の伝統医学的な問題〉を解決するための鍼灸施術と各人の病状に合わせた具体的なセルフケア指導を治療の柱に据えています。 

 定期的な鍼灸受療と日々の養生(摂生と保養)を続けていくことで、損傷した組織や異常化した機能の修復が促進され、苦痛に対する高まりすぎた感受性が抑制され、不快な症状が徐々に軽減し、治癒への希望や前向きな気持ちが芽生えてきます。その過程で、病の苦悩に振り回されない生活を取り戻していくのです。 

 ただし、完治がいつになるのか、そもそも完治が可能なのかどうかは、病人を取り巻く環境や先天的な身体的条件、生命力(回復力)の消耗と老化の程度、病の重さや根深さ、心の持ち様や性格(病に対する考え方、現実の受け止め方)などによって異なり、一概には言えません。

 また、当院の治療がすべての人にとって最適というわけでもありません。「肩凝り腰痛には鍼灸が良い」とよく言われますが、整体やカイロプラクティックなどの民間療法の方が
より早く治癒するケースはもちろんあります。あるいは現代医学的な治療を受けながら、その過不足を鍼灸で補助的に調整することで治癒を早めるという利用の仕方もあります。医療それぞれで治療の標的と手段が違うため、各人の病状に最も適している治療法を優先して選択することが大切です。

 伝統的鍼灸が際立った効力を発揮するのは、心と体の内部機構(仕組み・システム・メカニズム・全体性)である「五蔵」に不調和が生じた場合です。伝統医学で言う五蔵の不調和とは、さまざまな症状を引き起こす全身的な生理機能の乱れのことであり、その原因はおもに①精神的ストレス、睡眠不足、食生活の乱れ、季節の変わり目の急激な気候の変化や厳しい暑さ寒さなどの日常生活から受ける心身へのダメージの蓄積、②妊娠・出産や大手術または大病を患ったことによる体力的な消耗、③年齢的な衰えです。

 「どんな治療も効かなかったのに鍼灸にかかったら改善した」というような事例の裏には、たいてい五蔵という“直接見ることも触れることもできない”内部的な問題が隠れています。伝統的鍼灸は〈ツボや経絡への施術を通じて五蔵に働きかける〉ことができますが、他の治療法には“五蔵を調整する”という手段も発想もありません。そのため、五蔵の不調和から病を患っている方々には鍼灸の真価を感じていただけるでしょう。

 ともあれ、伝統的鍼灸治療の「自ら治ろうとする力」の増強と基礎的な心身機能の向上(熟睡できるようになる、食欲が出てきて栄養をしっかり消化吸収できるようになる、大小便の排泄や月経が順調になる、生きる気力や意欲がわいてくる、感情や気分が安定するなど)という作用効能により症状や苦痛の段階的な軽減が見込めるため、当院ではすべての病人が治療の対象になります。

安心安全、繊細で軽快な施術

鍼の技法(痛くない鍼)

 当院では、髪の毛ほどの細さの柔らかくて刺さりにくい鍼をあえて使用しており、重要な血管や神経を傷つける心配がなく安全です。

 「太い鍼で強く刺激する」「深く刺す」「たくさん鍼をうつ」施術でなければ効果がないと思われるかもしれませんが、そんなことはありません。特定の皮膚表面(いわゆる「ツボ」)に極めて浅く刺す(皮膚の薄皮に鍼尖を引っかけるだけで、手を離せば鍼が立たずに倒れてしまう程度)、もしくは鍼を軽く押し当てることでも心身の生理機能を調整することができます。丁寧な診察によって患者がどの程度心身を消耗しているかを知り、それに応じて刺激量を調整することが肝要であり、むやみな強刺激は患者をさらに消耗させ、症状の悪化を招きかねないため、厳に慎むべきです。

 刺さない鍼の存在は古代中国の医学古典に記されており、れっきとした鍼の技法のひとつです。「浅刺し」「接触鍼」と呼ばれる“日本育ち”の繊細な技術は今や欧米諸国にも普及しており、深刺し・強刺激で知られる中国の鍼灸業界でも近年の経済発展による生活や意識の変化に伴い、浅い鍼が求められはじめているようです。

 ただし、この「浅刺し」「接触鍼」は五蔵や経絡の調整を目的としているため、詳細な診察を通じて患者の病状に最適なツボを厳選する必要があり、単に技術を習得するだけでは済まない難しさがあります。しかし、硬くなった筋肉に向かってたくさんの鍼を深く刺してそれを緩めようという施術ではないので、身体の負担は少なくて済みます。

 また、柔らかい鍼で皮膚表面を広く軽やかに突っつく「散鍼」は日本の伝統鍼灸家たちが編み出した気血をめぐらせるための独特な手法です。

 大病を長く患う人や老衰した人、過労とストレスに長年さらされている人、出産や手術の直後など消耗の激しい人、妊婦などは刺激量過多による病状悪化の危険が常に伴いますが、【浅刺し・接触鍼+少数のツボ】ならその危険を最大限回避できるので、病人を選ばない施術法といえます。

 乳幼児への施術(「小児鍼」)は、鍼を指で隠しつつ鍼尖で皮膚面を優しく撫でる(または尖っていない特殊な形の器具で撫でる)だけなので怖がらせることがなく、またとても心地良いため喜んで施術を受けてくれます。乳幼児の身体は繊細で敏感なので、短時間の軽微な刺激でもよく反応するのです。

 感染防止の対策として、当院では使い捨ての鍼とシャーレ(鍼置き)を使用しています。

灸の技法(火傷しない灸)

 当院のお灸は、皮膚が焼ける前に取り去る「知熱灸」を常用しており、火傷の心配はありません。

 症状によっては、一瞬で燃え尽きる、ごま粒ほどの極小のお灸(「点灸」「糸状灸」)を使います。これは熱いというより、爪楊枝で皮膚を突っついた時のチクッという感覚に似ています。

 灸痕が残ることはほとんどなく、残っても数日のうちに消えてしまいますが、どうしても焼き切るお灸に抵抗のある方や糖尿病が進んで化膿しやすい方などには使用しません。

少ない負担で鍼灸を身近に

 現行の公的医療保険制度では、伝統医学に基づく治療は冷遇されています。

 鍼灸の保険適用の条件は「医師による適当な治療手段がなく、はり・きゅうの施術を受けることを認める医師の同意がある場合」とされ、鍼灸の施術を受けながら並行して医療機関(病院、クリニック)で同じ傷病の診療を受けた場合は鍼灸が健康保険扱いにならないという決まりもあります。

 つまり、医者が鍼灸治療の保険適用に同意するとは「自分で治せなかった患者を鍼灸師に任せて、自分は手を引く」ということに他なりません。ところが、実際にはそれほど鍼灸に信頼を寄せている医者はめったにおらず、同意を得ることはかなり難しいのです。

 しかも、鍼灸で保険が適用されるのは神経痛、リウマチ、五十肩、頸腕症候群、腰痛症、頚椎捻挫後遺症と診断された場合だけという制限もあります。

 当院では、鍼灸治療はこのような整形外科的な疾患にとどまらず、病気全般に有効である(体調をととのえて、病人の治ろうとする力を底上げする、という意味で)と考えるので、鍼灸の可能性が十分に活かせない現行の保険制度に縛られることなく、自費診療を続けています。

 また、 療養費(立替払いした医療費)の請求先である健康保険組合の中には鍼灸の保険適用を認めないところもあり、結果的に患者さんの不利益や混乱、不平等感につながるおそれがあります。これも当院が保険診療を行わない理由のひとつです。

 とはいえ、自費診療が高いという理由で鍼灸を敬遠し、その醍醐味を知ることなく、いたずらに病の苦しみに耐えている人がいるなら残念でなりません。

 当院では、なるべく軽い負担で継続的に受療していただけるように、以下の取組みを実施しています。

初月割り

 初診から1か月間は、3日に1回以上の頻度で受療していただいた場合に施術料を半額に割引きます。施術の間隔をあけず、その効果を積み重ね、早々に治癒への土台を確かなものにするためです。

 この1か月は、当院の鍼灸施術と伝統医学の考え方に馴染み、ご自分の心身の状態とじっくり向き合う時間と考え、治療優先の生活を送っていただきたいと思います。

 治癒過程は患者それぞれの病状や生活環境その他の諸条件によってまちまちですが、この割引期間中に
体調や自覚症状、身体所見のいずれかにわずかでも変化が見られれば、相応の時間をかけることで快復する可能性は十分見込めます。

 それでも、1か月間の経過にご納得いただけなかった方に対して、2か月目以降の治療継続をおすすめすることはありません。体調の好転や症状軽減を実感され、当院の治療方針や伝統医学の考え方に治癒への可能性や希望を感じられた方には、引き続きお力添えをさせていただきます。
【料金】

予約割り

 病が根深く慢性化していると治癒までに時間がかかるため、一定期間治療を継続する必要があります。一時的な症状の軽減にとどまらない〈根本からの改善〉に向けて、辛抱強く定期的に受療していただけることに対する割引です。適用条件は「施術終了時(会計時)に次回の予約を済ませ、変更することなく予定通り受療された場合」です。
【料金】

セルフケアでマイペース治療

 急性の新しい傷病では、その激しい症状を早く緩和させるために毎日施術することもありますが、無理をして病状をこじらせるようなことがなければ比較的早く治っていくものです。

 病状をこじらせて慢性化した古い病に対する当院の治療は、1か月間あるいは10回前後(初月割りの期間・回数に相当)の施術をめどに、効果判定と経過観察を繰り返し、病状をより詳細に把握し、治療の精度を高めていきます。

 その後は定期的(1週間から10日間隔)に当院を受療しながら、簡易鍼灸法や食養生、呼吸法、運動法など病状に適した具体的なセルフケア(生活習慣の改善と体調の自己管理も含む)を継続的に実施していただきます。そして、日常生活に重大な支障をきたさないくらいにまで心身の苦痛や機能不全が快復し、伝統医学的な診察からも十分な好転が認められた後は、さらに受療間隔をのばしていき、当院の施術に頼らずに済む生活を徐々に取り戻していただきます。

 ただ、自覚症状の急激な悪化が見られた時は、心身内部にも大きな変化が生じており、改めて診察し直す必要があるのですぐに再受診してください。悪化を阻止する目的だけではなく、治癒を促進させるチャンスでもあります。

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